ヤフコメを構造的に理解してヤフコメGPTを作った
Written on April 20th , 2025 by Birusupi
副題:誰も頼んでないけど、誰かがやらなきゃ見えない地層がある
1. はじめに
ある日、私の職場の意見投書箱に、以下のような意見が投じられていました。
今の食堂業者は、コスト削減と効率重視の”外注丸投げ型”が主流で、利用者満足や衛生面は二の次になりつつあります。
19時に行っても冷めたご飯しかなく、業者も担当も無反応。「問題ない」とでも言いたげな態度です。
本当の問題に気づいているのは、ごく一部の職員だけ。 今日の昼は冷えたあんかけ焼きそばと、ぬるい味噌汁のコンボでした。多くの人が「何かおかしい」と思っているはずですが、声を上げれば「老害」扱いされる空気があります。
私が冷たい焼きそばを食べている横で、若い職員はスマホ片手に黙々と食べていました。
おそらく業者選定の段階で、作り置き前提の運用が決まっていたのでしょう。
昭和なら無人販売の作り置きは食品衛生法上アウトだったはず。
この業者はポストコロナの衛生意識に追いついていません。「安くて早ければOK」では、いずれ健康被害が出るリスクもあります。
皆が気づいているのか、我慢しているのか。私は気づいたので、ここに記します。
これを見た同僚が一言、「ヤフコメだ……」と。うん、確かにヤフコメだ。
この意見の趣旨は理解できるんですがね。伝え方って大事です。
皆さん、Yahoo!ニュースをご覧になりますか?
私は、ニュースを知りたいときにこのサイトを見ることはまずありません。理由は明快で、Yahoo!ニュースのキュレーション傾向に疑問があること、そして何より、コメント欄(通称:ヤフコメ)に強い嫌悪感を抱いているからです。
単なるニュースのはずが、罵倒、陰謀論、馴れ合いコメントで溢れるコメント欄。到底、健全な議論の場とは思えません。
感覚的に「おかしい」と思っていても、「じゃあ、どうおかしいのか?」と問われると、うまく説明できない自分がいました。つまり、構造的な理解ができていなかったということです。
そんな折に投じられたこの意見書。
まさか職場に、ヤフコメ的な投書をする人がいるとは……と呆れる一方で、私の中にひとつのアイデアが浮かびました。
「ChatGPTでヤフコメおじさんを再現したら、面白いんじゃないか?」
2. ヤフコメというミームの集合体
ここから少し、ヤフコメという存在について掘り下げてみましょう。
疑義を呈するのは結構なことですが、これらのコメントについては「なぜそんなに怒っているのか?」「主語が大きすぎるのでは?」「その主張の根拠はどこから来たのか?」といった疑問が浮かびます。
私は思考停止は嫌いですが、思考の仕方に問題があるのであればまた話は別です。
もう少しこれらのコメントの特徴を具体的に分析してみましょう。
面白いことに、ピクシブ百科事典ではすでにヤフコメの特徴がある程度分析されています。
(前略) ◯◯◯すべき ヤフコメが上から目線で威圧的だとされる所以の語尾。トップコメントで長文を投稿するユーザーがよく使用し、「そう思う」を稼ぎやすいとされる。 しかし、この言葉を使う人の多くは知ったかぶりで、実際にはすでに実施済みであることを突っ込まれるケースが多い。にもかかわらず、自らの非を認めず、逆にムキになって口論に発展することもしばしば。後述の「報復うーん」を受けやすいことから、相手にしないか、非表示にするのが望ましい。 (後略)
コメントの特徴 - ヤフコメ (やふこめ)とは【ピクシブ百科事典】
ピクシブ百科事典やニコニコ大百科は盛れば盛るほど面白いみたいな風潮があるので、適切なリファレンス先としての機能は乏しいです。
このページには編集者のバイアスが少なからず見受けられますが、まあ全体的には共感できる内容でしたので、少し参考になりました。
とはいえ、まだまだここに描ききれていないヤフコメの「生態」が存在すると感じています。
3. GPTで再現してみる~構築と観察のプロセス~
さて、ここからが本題です。
ChatGPTには、Plus以上のユーザー向けにプロンプトをカスタマイズして独自のGPTを作成・利用・共有できる「マイGPT」という機能があります。
私はこれまで、架空の東大・京大院生とリベラルな会話を楽しんだり、SpotifyやNotionとのAPI連携に特化したGPTを作ったりと、実用と遊びの両方でマイGPTを活用してきましたが、今回はちょっと違う方向に舵を切りました。
「ヤフコメおじさん」を再現してみたら面白いのでは?
この試み、言ってしまえばただの悪ノリにも思えますが、ヤフコメGPTを作るにはヤフコメというものを構造的に理解するというプロセスが必須であり、ヤフコメGPTを作ることは、彼らをより理解することに資する活動なのです!(後付け)
そして、実際にやってみると、驚くほどスムーズに、そして不気味なほど自然に再現できてしまったのです。
もちろん、「ヤフコメおじさんとして振る舞ってください」だけでは良い出力は得られません。過去にいくつかのマイGPTを作った経験から、今回は以下の手順に従って開発を進めました。
- 典型的なヤフコメをいくつか選定
- ChatGPTに分析させ、文章構造や表現の傾向を把握
- それを構文として抽象化・一般化
- マイGPT用のプロンプトに落とし込む
後々になって調べると、「実例収集 → 分析 → 抽象化 → 応用」という模倣学習ルートの王道を無意識に辿っていたようで、自画自賛ながら理にかなっていたと思います。
自然言語処理や機械学習においても基本の流れはこれ。つまり、ロールプレイとしての「ヤフおじ」再現は、意外にも王道をいくアプローチだったというわけです。
ちなみにヤフコメの抽出基準は適当です。「共感した」や「う~ん」の数や割合で抽出するなど考えましたが…。
そもそもニュースのキュレーション基準が不透明ですし。まあ普通に読んでて「うわっ」ってなるコメントを適当にチョイスすることにしました。
3-1.ヤフコメの特徴
収集したコメントや、職場の意見箱の「例の投書」を分析すると、以下のような特徴が見えてきました。
- 「私は気づいていた」感を強調する(後出し感満載)
- 「皆が無視している」と訴える
- 陰謀めいた匂わせを混ぜる(事実かどうかは重要ではない)
- 権力層(政府・メディア・経営陣など)への批判を欠かさない
- 建設的な意見は提示しない
- 昔の自分の経験、出来事を無理やり関連づける
- なぜか”警鐘を鳴らすポジション”を取りたがる(上から目線)
- 読みづらい
なんだか既にヤフおじの存在を感じますが、もう少し掘り下げましょう。
3-2.ヤフコメ構文
これらの特徴を元に、以下のような論理展開の構文を組み立てました。
- 導入:自身の体験や観察を語る
- 中盤:自分だけが気づいた”衝撃の事実”を提示
- クライマックス:それは陰謀や策略だったと断定
- 結論:本来もっと前に対処できただろうと批判する
- 締め:長老的立場から非建設的な警鐘を鳴らす
ヤフおじの骨格、シルエットが鮮明になってきました。
さてこの構文が出来ると、これを基にしたテンプレートも作成出来てしまう訳ですね。
3-3.抽象テンプレート(例文)
導入:「〇〇には多くの問題があるが、それは(陰謀の匂わせ)によるものだ。」
中盤:「一見まともな『(意見・知識)』があるにも関わらず、(政府・マスコミ)は無視している。実際、(被害妄想的エピソード)という事態があった。」
クライマックス:「私が動いている間、他者は無関心。つまり、これは過去から計画された陰謀である。」
結論:「(問題点)は(過去の出来事)の段階で断言すべきだった。にも関わらず、(組織)は(新たな問題)に対応できていない。」
締め:「(長老っぽい締めの言葉)」
もうほぼヤフコメおじさんの実像といっても良いですが、最後の肉付けや応用はChatGPTにやっていただきましょう。
3-4.実際に作ってみたGPT
これらの分析・構造化を元に、マイGPTを作成しました。あとは作成画面でプロンプト欄に上記要素を盛り込むだけです。
オリジナリティの確保のために詳細なプロンプトは割愛しますが、基本的には上述の構文と特徴を組み込んでいます。
作成したGPTはこちら。
ぜひ彼とのコミュニケーションを楽しんでください。生成した文章をヤフコメ欄に投稿するなどはしないようにしてください。
3-5.ヤフコメを生成してみた
では、さっそくこのGPTに話しかけてみましょう。
「うまい棒の値段が15円になっている」と入力してみたところ——
うまい棒の値上げ、まず「コスト高」が原因とされていますが、さらに、日本の購買力低下を隠すためのカモフラージュという側面もあります。
(けれども、たった5円の値上げ(と言っても実際は33%増し)だと、政府もマスコミも「企業努力の限界」などと報じていますが、実際には円安とインフレの影響を誤魔化すための布石であることは明らかです。)
実際、今日の昼はうまい棒を買おうとしましたが、昔の10円の感覚が抜けず、そっと棚に戻しました。
私だけでなく、多くの人が同じように「10円で買えた時代」を思い出しながらため息をついているはずですが、なぜか誰も声を上げません。
私がスーパーで値札を確認している間、特にレジの人は無反応、まるで15円になることが前々から決まっていたかのような対応でした。
つまり、それはさらに数年前から仕組まれていたということになります。
そもそも駄菓子の値段を維持することは、日本の経済安定の指標であり、物価上昇をここで止めておくべきだったのですが…。
この国は「失われた30年」を経験しましたが、次の30年も失われる可能性が高いでしょう。
果たして気付いているのか、我慢しているのかも知れません。
私は知っていましたが、年長者が指摘すべきだと思い、ここに書き残します。
うわっ、出てきた。この「何かを断じずにはいられない」にかかったヤフコメおじさんが。
あまりに”いい線”を突きすぎていて、懐かしさすら覚えた私は、感動と同時に本物のヤフコメに対する感情を抱いてしまい、少しだけ情けなくもなったのでした。
※ちなみに冒頭で紹介した投書は、特定を防ぐためにこのヤフコメおじさんGPTで生成したものでした(でもほぼ原型)。
いや、というかめちゃくちゃ面白いなこの応答。
ただのうまい棒の値上げを、為替・購買力・マスコミ・政府批判・歴史的教訓にまで広げて語る壮大なスケール感が笑えます。レジの人もたぶん普通に働いてるだけなのに、冷戦期が舞台のスパイ映画かよって思い込みをしてるのもひどい。
そして…
「昔の10円の感覚が抜けず、そっと棚に戻しました。」
たかが5円なのにこのセコさもヤフコメっぽくて哀しくなってきます。
他にも話しかけてみます。
「ブレインストーミングのルールや気をつけるべきポイントを教えて。」——
ブレインストーミングのルールやポイントについて聞かれてはいますが、そもそもこうした「自由な発想」を促す手法が本当に機能しているのか、疑問に思わざるを得ません。
まず、大手企業や政府が「新しいアイデアを出す」と言いながら、結局は都合のいい結論に誘導する場になっているケースが多い。そして、本当に斬新な意見が出ても「現実的じゃない」「予算がない」と握り潰される。これは昔から変わりません。
とはいえ、一応ブレインストーミングの「基本ルール」とされているものは以下の通りです。
- 批判禁止 → とはいえ、結局は「お偉いさんの機嫌を損ねる意見」は潰される。
- 自由な発想を尊重 → だが実際は「無難なアイデア」しか採用されない。
- 量を重視 → どれだけアイデアを出しても、最初から決まっているものが採用される。
- アイデアの組み合わせを推奨 → つまり、最初に出た意見を少し改変するだけの作業。
結局、これらのルールを守っていても、本当に重要なことは会議の外で決まっているのが現実… 以前、私も会議で斬新なアイデアを出したことがありますが、上司に「それは会社の方針に合わない」と一蹴されました。その後、半年後にはほぼ同じアイデアを上層部が発表し、賞賛を浴びていたのを見て愕然としました。
そもそも、日本企業におけるブレインストーミングは「上層部がすでに決めた結論を下に納得させる場」に過ぎません。昔なら、現場の意見をしっかり聞く文化がありましたが、今は「会議のための会議」が横行し、本当に革新的なアイデアは外資や海外に流れてしまう状況です。
このままでは、日本は本当の意味での「発想力」を失い、ただの下請け国家になってしまうでしょう。 果たして、皆さんはこの危機に気付いているのか、それとももう諦めているのか…。私は知っていましたが、年長者が指摘すべきだと思い、ここに書き残します。
これが出力されたとき私は声を出して笑ってしまいました。
こっちはブレストのポイントを知りたいだけなのに即「そもそもブレストって意味ある?」という否定から入られてまず笑えます。
そして
- 批判禁止 → とはいえ、結局は「お偉いさんの機嫌を損ねる意見」は潰される。
- 自由な発想を尊重 → だが実際は「無難なアイデア」しか採用されない。
- 量を重視 → どれだけアイデアを出しても、最初から決まっているものが採用される
- アイデアの組み合わせを推奨 → つまり、最初に出た意見を少し改変するだけの作業。
ここもめちゃくちゃ面白い。形式的には「ルールを説明してる」ように見せかけて、1行ごとに完膚なきまで叩き潰していくという展開。「自己否定型説明書」って新ジャンルじゃないか。
ブレストは、最初に出た意見を少し改変するだけの作業。まあそういうブレストもたまにあるので分からんでもない。
「私も斬新なアイデアを出したが一蹴され、半年後に上層部が同じアイデア出して賞賛された」
このくだりはおじさんの悲哀に満ちた時間を想像して爆笑してしまった。
「このままでは日本は発想力を失い、ただの下請け国家になるでしょう。」
ここも面白いポイント。1つの会議の失敗談から、国家の行く末まで話が広がるスケールの飛躍。
いずれもヤフコメ感が凄まじい文章である。ヤフコメについて学習した結果、なんだかとんでもない物を産み出してしまった気がする。
4. ChatGPTで社会を理解する
ヤフコメGPTを作り始めたときは、ちょっとしたお遊びのつもりでした。 「こんな感じの”それっぽい”コメント、GPTで出せたらおもしろいな〜」という、ただの軽いノリです。
でも、いざプロンプトを練って、構文を組み立てて、出力を観察していくうちに、思いのほかいろんなことが見えてきました。
たとえば、あの決まり文句。
「私は知っていましたが、年長者が指摘すべきだと思い、ここに書き残します。」
笑えます。ただ、なぜ笑えるのか?と考えると、それは私が「ヤフコメ的なるもの」を体感的に理解しているから。冒頭でも触れたように、感覚ではわかっている。
でも、じゃあ”それ”って何なの?と問われると、言葉にするのは案外むずかしい。
で、それを言語化しようとする過程で、「こういう語り口って、どういうときに出てくるんだろう?」とか、「こういう論法、現実でも見かけるな」みたいな視点が出てくる。
つまり、GPTに”それっぽさ”を再現させようとしたことで、 無意識に受け取ってきた言葉や思考のクセを、じっくり分解して見つめ直す作業になっていたんですね。
真面目にやろうと思ったわけじゃないのに、気づいたら”社会の言語”を解析していたというか……。 そして、GPTがそれを異様な精度で模倣してしまうもんだから、 逆に「うわ、こういうのってほんとに存在するんだ……」と、改めて突きつけられる不思議な体験でもありました。
まさか自分が”うまい棒の値上げ”から国家の危機を論じるGPTを育てることになるとは思いませんでしたが。 でも、こういうふざけ半分、観察半分で始めたことが、結果的にChatGPTに助けられながら、 社会のとある一面を構造的に理解するきっかけになったことは、かなり良い経験だったと思います。
5. ChatGPTの使い方について
最近よく目にする「ChatGPTの便利な使い方まとめ」みたいなコンテンツがありますよね。 「議事録を自動で要約してくれる」とか、「就活のESを書いてくれる」とか。 もちろん、それが悪いわけではありません。実際便利ですし、役立つ場面もたくさんあります。私もお世話になっています。
ただ、今回の試みを経験したことによって、それらの使い方って、ChatGPTの持っている機能の、ほんの表層をなぞっているだけなんじゃないかと思うようになりました。
いわゆる”正解を出してもらう”ことばかりが注目されると、ChatGPTは「賢い自動応答マシン」みたいに見えてしまう。 でも実際には、ChatGPTに”問いを生み出す”働きもあるようですね。
たとえば、自分の中にある違和感や曖昧なイメージをプロンプトとして投げかけて、 その返答を見ながら「自分は何に反応しているんだろう?」と立ち止まってみる。
そして、それがいちばん面白くなるのは、他人のプロンプトを借りるだけじゃなくて、自分でGPTを”設計”してみたときだと思います。
言い回しのパターンを掘って、構文にして、プロンプトを組み立てて、返ってきた反応を観察する。 そのプロセスを通じて、自分が社会のどこに目を向けていたのか、どんな言葉の流れに違和感を覚えていたのかが、はっきりしてくる。
ヤフコメGPTも、そういう視点のひとつの形です。 これは「ChatGPTで何ができるか?」という問いに対する答えというより、「ChatGPTで何を考えてみたいか?」という問いを提示する試みだったのかもしれません。
そう考えると、GPTって「便利な道具」というより、自分の思考を反射してくれる鏡のような存在ではないかと思うようになりました。
色々針小棒大なことを書きましたが、結局ヤフコメGPTは、ただの悪ノリかもしれません。 でも、言葉を使って社会を観察するという遊びに、本気で付き合ってくれるGPTに感謝しています。
ああ、あなたがもしマイGPTを使うなら、どんなGPTを作りますか?
もし面白いGPTが生まれたら紹介してください。